稲葉奈々子教授
上智大学の稲葉奈々子教授による問題発言
稲葉奈々子教授は、朝日新聞の記事で、次のように述べています。
しかし、「1982年の難民条約発効により、日本政府に一般外国人との『内外人平等の原則』が課された」という史実はありません。
そもそも、難民条約には、「内外人平等の原則」という文言はありません。 また、難民条約は、その名が示すとおり難民の法的地位を定める条約です。 難民ではない一般外国人について、日本国民と包括的に平等に扱うことを締約国に義務づけた条約ではありません。
「内外人平等の原則」は難民条約が日本に課した義務ではない
確かに、日本政府は、1981年に公布された「難民の地位に関する条約等への加入に伴う出入国管理令その他関係法律の整備に関する法律」により、国民年金法などに設けられていた国籍要件を撤廃しました。この改正は、日本について難民条約が発効した西暦1982年1月1日に施行されました。
当時の社会保険庁年金保険部長通知は、社会保障について難民条約が定める内国民待遇を実現する必要がある一方、難民に限って措置することは公平の観点から適当でないとして、難民以外の「他のすべての外国人」、すなわち日本国内に住所を有する日本国籍を持たない者についても、国籍要件を撤廃する措置を講じたと説明しています。厚生労働省のウェブサイトから直接確認できます。
しかし、難民以外の一般外国人にまで国籍要件の撤廃を及ぼしたことは、難民条約によって日本に課された義務ではありません。 難民だけに措置することは公平でないという独自判断に基づき、日本政府が国内法上、自主的に内国民待遇の対象者を拡げたのです。
区別すべき二つの措置
したがって、次の二つは明確に区別しなければなりません。
- 第一に、難民条約によって日本に課された、一定の要件を満たす難民に対する、条約所定の分野における内国民待遇。
- 第二に、日本政府が国内法上の判断により、国民年金法の国籍要件撤廃を難民以外の一般外国人にも及ぼした措置。
稲葉奈々子教授の「1982年の難民条約発効により『内外人平等の原則』が課された」という命題は、この区別を欠いています。 そのため、難民に対する限定的な条約上の義務を、一般外国人に対する包括的な平等待遇義務へと置き換えた稲葉教授の説明は、誤情報または偽情報に当たります。
念の為。
発言の後半、すなわち、国籍要件が撤廃されるまで一般外国人が国民年金に加入できなかったという点は、基本的に正しいものです。 ただし、それは「国民年金」という名称から分かるように、当時の国民年金法の対象者が日本国民であったということです。
稲葉奈々子教授による言説の問題は、その国籍要件の撤廃について、「難民条約発効によって一般外国人との『内外人平等の原則』が日本に課された結果である」という、事実に反する前提が組み込まれていることです。
日本について難民条約が発効した1982年当時から令和8年現在に至るまで、難民条約によって、日本が難民ではない一般外国人すべてを日本国民と包括的に平等に扱う義務を課されたという事実はありません。 重要な事項ですので繰り返しますが、そもそも難民条約の条文に「内外人平等の原則」という規定はありません。
条約に定められているのは、難民に対し、公の初等教育、公的扶助、一定の労働条件および社会保障などについて、自国民に与える待遇と同一の待遇を与えることです。 すなわち、特定の分野における難民への内国民待遇です。 (もっとも、条約が定める待遇の基準は条項ごとに異なります。自国民と同一の待遇を求める規定だけでなく、一般外国人より不利でない待遇や、できる限り有利な待遇を求める規定もあり、適用対象、要件および例外も個別に定められています。そのため、条約の原文または公的機関による訳文を確認されることをお勧めします。)
内外人平等原則の「外人」と難民条約の「難民」は異なる分類
また、日本語において、条約や外国人政策の文脈で「内外人」と表現した場合、通常、「内」は自国民を、「外」は外国人一般を指します。少なくとも、「外人」という語が難民のみを指すと解するのは、一般的な語義から大きく外れます。 さらに、稲葉奈々子教授は、「日本政府が外国人の国民年金加入を認めなかった」という一般外国人全体に関する説明の中で、「内外人平等の原則」という表現を用いています。この文脈からも、「外」が難民だけを指していると解釈することは困難です。
当研究所の評価:上智大学の稲葉奈々子教授は朝日新聞の記事で難民・外国人に関連する虚偽を流布した
以上から、当研究所は、稲葉教授の発言が、難民に対する限定的な条約上の内国民待遇を、一般外国人に対する包括的な平等待遇義務であるかのように提示したものと判断します。
したがって、問題の発言を「難民条約の発効により、日本に(難民ではない)一般外国人を日本国民と平等に扱う義務が直接課された」という意味に解する限り、稲葉奈々子教授は、虚偽を流布したものと評価できます。
故意か過失かに関わらず、早急な訂正が必要
大学教授が新聞記事を通じて公衆に示す説明として、条約上の義務の対象である「難民」と、日本政府が国内法上の判断によって対象に加えた「一般外国人」とを混同することは、軽微な言葉遣いの問題ではありません。
- 仮に過失による誤情報であれば、稲葉奈々子教授の専門性および事実確認の正確性に重大な疑義を生じさせる水準の誤りです。
- 仮に両者の違いを認識しながら意図的にこの偽情報を拡散したのであれば、稲葉奈々子教授の学術的誠実性の深刻な欠如を示す事態であると考えられます。
もっとも、故意であったか過失であったかにかかわらず、史実と異なる命題を、あたかも事実であるかのように一般読者に提示した点は変わりません。故意にせよ過失にせよ、早急な訂正が必要です。
注記
当研究所の運営者は、国際法を専門とする学位を有していません。本稿の理解に誤りがある場合には、条文、政府資料その他の根拠を添えてご指摘いただければ幸いです。
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